行ったり来たり行き止まり

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充実した十分間だったとは言い難いが、手に入れた情報はその十分を遥かに上回る量だった。

例えば好きな食べ物はヤンコチだとか寿司だとか。
血液型はO型で誕生日は3月9日で、もう過ぎてしまった事とか。
それから深夜が好きでフルムーンが好きとか、いつ使うのか全く見当もつかない情報まだあった。

そういう人形みたいにひたすら頷いて過ぎた十分間だったのだ。
ただ一つとても参考になったのは


「Seesawっていう歌、おすすめだから聞いてみて」


という去り際に放たれたそれだった。
だから早速帰り道で聞こうと思って、仕事の合間にダウンロードした。
もうこれはファンなのか？
よく分からない。

いずれにしても、職場から自分の家のドアが見えるまでは三曲をループして来たのは確かだ。
家のドアが見えるまで(・・・・・)だ。

私の家のドアのその隣。
つまりユンギの家のドアの前に女の人がいる。
それを見るまで聞いてたのだ。

遠目で見ても分かった事はとりあえず"美人"という事。
にしても何をしているのだろう。
入るわけでもなくドアの前で携帯を＿＿＿＿＿


「あ、あの」


女の人が私に気付いて声をかけて来た。
突然の事で何も言えないまま、とりあえず自分の家のドアの前まで。


「…ここに住んでる方ですか？」


「あ、まぁ…そう、ですね…」


何だろう…
私に出来る事なんて何にもないと思うけれど。


「あの、こんな事頼むの本当申し訳ないんですけど…」


というありがちな前置きを女の人が言って、手に持っていた高級ブランド店の紙袋をおずおずと私の前に。


「今いないみたいで…、これ、渡して頂けますか？」


"いないみたい"の時にユンギの家のドアに目配せをした女の人からは本当に申し訳ないという雰囲気しかなくて、断りたいのは山々だがかなり難しそう。
しかも中身は何かと聞ける立場でもないし。

ていうか本人に連絡するとか、後日また来るとかいくらでも出来るんじゃないかとか、色々思う節が頭の中で山程でてくる。
でも。


「…渡しておきます、」


詮索する言葉は勿論、他の策を勧める事も出来ないまま紙袋を受け取った。

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