行ったり来たり行き止まり

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その日、家に帰って寝室に入った時に気付いた物があった。
うっかり忘れてたのだ、存在を。
何だっけ、あの紙袋…って目が向いて直ぐ思い出した。


"今はまだ開けないで"


ユンギの言葉通り開けなかった袋は、"今"開けなかったどころか数日経ってしまったのだ。

寝室に入ってパジャマを持ってお風呂に入ろうと思ったのに、それを忘れて紙袋を持ってリビングに戻った。
袋の中にプレゼントの様な箱。
心がそわそわする、良い意味で。


「わ…綺麗…」


至極透明度の高い丸いガラス玉の中に金色の満月が浮かんでいるオルゴール。

満月モチーフなんて私の趣味ではなくユンギの趣味に合わせた物だけれども、そんな事は全く気にならないくらい綺麗で暫くホェーなんて気の抜けた声を出して眺めてしまった。

ネジを回すとオルゴールが遠慮がちな音量で流れ出して、中の満月がゆっくりと回る。
どんな仕組みなってるのか分からないが、可愛い、綺麗、凄い。

開封するのが遅れてしまった事でお礼も遅れてしまった。
でも一言言わなきゃと急く気持ちのまま、自然とユンギの番号に"発信"をタップした。


「もしもし」


三回目のコールの後でユンギの声が聞こえた。


「遅くなっちゃったんですけど、今オルゴール開けました、満月の、お礼言わなきゃと思って」


一瞬だけ間が空いて何も聞こえなくなって'え？'なんて声を出した私に


「遅っ」


と、ご尤もな返答が返ってきて苦笑いを返した。
だから遅くなったって言ったのに。
それでもユンギは'야임마(ヤインマ)'と続けて


「それとヘッドホンあげたんだから、明日か明後日、なんか作って持って来いよ？期待してるから」


なんて、その声色が明るく弾んで聞こえて私もユンギからヤインマなんて言われたもんだから、思わず頬が緩んだ。
'分かりました'と伝えた私の声も緩んでいる。

それからユンギの後ろがまたがちゃがちゃっと少し騒がしくなって


「シュガヒョンもしかしてAさんと電話？！」


そう聞こえた、気がした。
ユンギの声が急に小さくなって'야 닥쳐(ヤ ダクチョ)'と言ったのも聞こえた。
"気がした"んじゃなくて、やっぱり聞こえたんだ。

私の存在がユンギと親しい誰かに知れているという状況が、こんなにむず痒いものか。

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